水面の油を回収したい
水面に浮いた油を回収除去するとき、場面やニーズによって手段・資材を賢く使いわけると手間もコストも仕上がりも、大きく改善します。
1.吸着回収
油の吸着回収には、通常はオイルマットを使います。
オイルマットは、吸着できる油の量が多くて浮力の強いもの、つまりコストパフォーマンスのよいものでなければなりません。
軽質油(A重油、軽油、作動油など)の吸着量に大きく影響するのは、オイルマットの素材です。
たとえばマイクロファイバー(直径1~5μm)と通常繊維(直径約50μm)を比べてみます。
(着色した)軽油の吸着量は、マイクロファイバーが57.1g、通常繊維が33.7gでした。
(実験動画は国土交通省の型式承認における吸着量試験を模していますが、金網でなくフライヤーで油切りしたので本式の試験よりも少ない吸着量となっています。)
マット比較動画①
多くの現場では、オイルマットは波や流れに揉まれながら油を吸着し、最後は水面から拾い上げられて回収されます。
そこで「水にもまれるオイルマットに油を吸わせ、約10秒かけて回収する」実験を行いました。
容器に残った油をノルヘキ抽出して計量し 投入した油量との差から吸着量を算出すると、マイクロファイバーの吸着量は約50g、通常繊維の吸着量は約35gでした。引揚回収に手間どれば より大きな差となるはずです。
マット比較動画②
浮いている油膜が薄いときも、素材による違いが大きくなります。
以下の実験動画では繊維素材と吸着孔をもつ素材とを比べました。
水面で七色に光る油膜の厚さは0.05~0.001mm程度です。
他方、一般的繊維製オイルマットが回収できる油膜の厚さは0.25mmまでという研究もあります。
油膜吸着比較動画
オイルマットの浮力は油を吸うと落ちます。その落ち方もオイルマットの素材によって異なります。
ここでも繊維素材と吸着孔素材とを比べてみます。
次の動画は、油を吸ったあとの浮力を確認する実験を行ったものです(視聴時間 約1分)。
水深は15cm、流速はおよそ18~28cm/秒です(これは一般的なオイルフェンスの限界流速、つまりそれを超えるとオイルマットの補助がないと油を流下させてしまうという流速でもあります)。
観察しやすいように油は赤く着色し、オイルフェンスのかわりに金網でオイルマットの流下を防いでいます。
浮力比較動画
実験後、下の写真のように、繊維素材オイルマットは水を吸って(油を再放出して)透明になっていることも観察されました。
比較写真
浮力の落ちやすいオイルマットは油吸着後は速やかに水面から回収する必要がありますが、それが無理なこともあり、たびたび交換していると水面を揺らしてせっかくオイルフェンスで拡散防止している油を下流側に逃がしてしまいます。そのようなときは吸着孔素材のマットが最適です。
他方、静止水面の厚い油を吸着孔素材のマットばかりで回収することはオーバースペックです。
素材ごとのオイルマットの使い分けが、コストとタイムのパフォーマンスを上げるのです。
なお、同じ繊維素材のオイルマットでも、繊維が細いほど吸着力や浮力が強くなります。(繊維間の隙間が小さくなるからです。)
繊維素材のオイルマットの中でも、比較的吸着力や浮力が強いタイプであれば、あまりあわただしく交換しなくてもよくなります。
これも実験動画で確認しましょう。向かって左が微細繊維、右が通常の繊維です。流速はおよそ15~25cm/秒です。(視聴時間70秒。)
パフィン実験動画
以上のように、繊維素材のオイルマットと小さな吸着孔をもつ素材でつくられたオイルマットは互いに補完しあうような機能を持っています。
場面ごとに両者を使い分けることが効率向上と費用削減につながります。
繊維素材 | |
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使い方 | 水面に短時間浮かべて油に接触させ、すぐに水面から引きあげ油が垂れないようにゴミ袋に入れ、おおまかに油を吸着させる。 |
吸着孔素材 | |
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使い方 | オイルフェンスの補助あるいは代用として、油の流下拡散を止める。 |
数時間~数日、水面に敷設しつづけて油を吸着させ続ける。 薄油膜を吸着回収させる。 |
繊維素材 | 吸着孔素材 | |
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使い方 | 水面に短時間浮かべて油に接触させ、 すぐに水面から引きあげ油が垂れないようにゴミ袋に入れ、 おおまかに油を吸着させる。 |
オイルフェンスの補助あるいは代用として、 油の流下拡散を止める。 |
数時間~数日、 水面に敷設しつづけて油を吸着させ続ける。 薄油膜を吸着回収させる。 |
次に、時系列に従って両者の使い分けをみていきたいと思います。
海でも内水(河川、湖、側溝など)でも、通常は、まずオイルフェンスを展張(油を逃がさないように浮かべること)して、油の流下や拡散を防ぎます。
しかしその先は、海と内水で異なります。
海ではそれほど精密な油の回収除去が要求されません。したがって繊維素材のオイルマットだけで回収作業ができます(流失には注意して下さい)。
他方、内水では精密な回収が要求されます。生活圏に近い上に、各種用水に利用されるからです。そこで、
①まず、展張したオイルフェンスの上流側に「吸着孔素材のオイルマット」を浮かべて、オイルフェンスの防除力を補完し、油が流下しないようにします。このオイルマットは回収作業が最終段階になるまでなるべく取り替えません。交換作業で水面が揺れて油滴がオイルフェンスをくぐり抜けるからです。
②そしてさらにその上流部に「繊維素材のオイルマット」を浮かべ、これは油を吸着したらすぐに何度も取り替えます。
③回収が進み、残った薄い油膜によって水面が七色に光るようになってきたら、いったんすべてのオイルマットを引き上げます。そして新しい「吸着孔素材のオイルマット」を浮かべて、薄い油膜を吸着回収します。これは通常は一回ですみます。
油の量が多いときは、②の段階が長く続きます。逆に、油の量が少なく、最初から薄い油膜しかない場合には、③のみですみます。
最後に以上の内容を弊社の製品を分類しながらまとめます。
パフィンオイルマット スミックスオイルハンター カタログダウンロード
コラム
「型式承認」を通ったオイルマットでないと海では使えない、というのは本当ですか?
確かに、オイルマットについては海洋汚染防止法に定められた「型式承認」という制度があります。しかし、この「型式承認」というのは、大型の油輸送船、その船を係留する場所ないし貯油施設に対しては一定数量のオイルマットを備蓄する義務が「海洋汚染防止法」により課されているところ、その備蓄すべきオイルマットの性能・性状を定めた制度にすぎません。
ですから、上記以外の施設や人が海洋の油濁を防ぐためにオイルマットを使用する場合は、型式承認に通ったオイルマットでなくてもかまわないのです。
確かに、海洋は波が荒いなどの特色があるので、頑丈さをテストされている型式承認品が役立つことも多いのですが、型式承認品を使っても役立たない場面(「沈む」「油膜が取れない」などの場合)は、型式承認のない別タイプのオイルマットを使うという発想も必要でしょう。
2.機械的な吸引回収
スピーディに油を回収したいときや、油が細かな砂泥や有機質と混合してムース状態になってしまいオイルマットではなかなか吸着できないようなときには、機械的にスキマーで吸引させることもあります。
ただこれまでのスキマーは、精密に油を回収しようとすると水も多く吸引し、吸引する水の量を減らそうとすると油を吸い残す、という二律背反に悩んでおりました。
弊社では、水面の油分を少量の水と一緒に精密に吸引回収する独自の「バルカスキマー」を開発しました。また、事故現場で油濁水から油のみを除去してきれいにした水をその場で放流できるようにする可搬式吸着塔「コプラ オイルフィルター」も開発しました。
バルカースキマー DDトラップ DDフィルター コプラオイルフィルター
3.ゲル化剤による固化と固化した油の回収
油を化学的に固化する粉末ゲル化剤(石油を原料とするポリアクリル酸など)は、主に海洋油濁事故で、油の回収と火災防止の目的で使われることがあります。
但し、油の回収精度が高くなく、薄い油膜までは回収することはできず、ゲル化剤じたいの水没・拡散・流下もあるので、異物混入を嫌う河川湖沼などの内水での油濁事故においては、あまり使用されていません。